Prompting 101
プロンプトの基本を学ぶ
AIとの対話は「プロンプト」から始まります。効果的なプロンプトの書き方をマスターしましょう。
なぜ今でもプロンプトが重要なのか?
「LLMが優秀になったから、プロンプトエンジニアリングはもう不要」という声を聞くことがあります。 しかし、それは大きな誤解です。
AIは「一般的な正解」を提供する
生成AIは膨大なデータから学習した「一般的な知識」を提供します。 しかし、あなたが本当に必要としているのは「自分や自社にとっての正解」です。 プロンプトは、その橋渡しをする重要な役割を担っています。
組織の「共通言語」として機能する
チームでAIを活用する際、各メンバーがバラバラの方法で問いかけていては、 得られる結果も一貫性がありません。プロンプトは、組織内での再現性を高め、 品質を担保するための「共通言語」となります。
人間が理解し腹落ちするための体験設計
AIから出てきた結論をそのまま受け取るだけでは、深い理解や納得感は得られません。 プロンプトを通じて段階的な思考プロセスを設計することで、人間がディレクションし、 結果を深く理解し、腹落ちできる高度な体験を作り出すことができます。
ポイント:良いプロンプトは、AIを単なる検索エンジンから、思考のパートナーへと変えます。
生成AIとの価値共創:インプット設計とアウトプット活用の両輪
なぜ生成された内容を「使えない」と感じてしまうのか?
それは、インプットの質とアウトプット活用の質、どちらか一つでも欠けているからです。
インプットの質とアウトプット活用の質
どちらか一つでも欠けたら、自分にとって最適な成果物は生成できない
質の高いプロンプトを書くだけでなく、生成された内容を深く理解し、
対話を通じて価値を高めていくプロセスが重要です。
1. 質の高いインプット設計
明確な問いの設計
問題認識:曖昧な質問は曖昧な回答しか生まない
なぜ重要か:AIは与えられた情報から推測するが、意図が不明確だと一般論に終始する
具体的な実践方法:
- • 背景と目的を明確に記載
- • 期待する成果物の形式を指定
- • 判断に必要な前提条件を列挙
例:「新規事業案を」→「製造業の強みを活かし、既存顧客向けにSaaS展開できる新規事業を3案」
プロジェクト固有の評価基準の明確化
問題認識:生成AIは「一般的な正解」を生成する
なぜ重要か:それは「あなたにとっての正解」ではない
具体的な実践方法:
- • 定量的な評価指標(ROI、市場規模、実現期間)を明示
- • 定性的な価値基準(顧客価値、競争優位性)を言語化
- • 組織固有の判断軸(社風、リスク許容度)を共有
例:「良い案を」→「投資回収3年以内、既存事業シナジー重視、技術リスク低」
AIが知り得ない内部情報の詳細な共有
問題認識:AIは外部の一般情報は知っているが、あなたの会社の内部情報は一切知らない
なぜ重要か:制約や強みを知らずに提案された案は机上の空論になりがち
具体的な実践方法:
- • 利用可能なリソース(予算、人員、技術資産)を明記
- • 制約条件(規制、社内ルール、技術的制限)を列挙
- • 組織の強みと課題(顧客基盤、ブランド力、組織文化)を共有
例:単なる提案依頼→予算・人員・期限・既存資産を明示した上での提案依頼
2. 効果的なアウトプット活用
段階的理解のためのプロセス設計
問題認識:結論だけ受け取っても人間は深く理解できない
なぜ重要か:背景や論理を理解しないと、適切な判断や応用ができない
具体的な実践方法:
- • 段階的な情報提示を要求(前提→選択肢→比較→推奨)
- • 各段階で疑問点を確認し、理解を深める
- • チーム内で議論しながら理解を共有
例:「結論だけ教えて」→「前提確認→複数案の比較→推奨理由→実行計画」の順で展開
価値がわかるための知識・解釈力の向上
問題認識:人間の理解力・解釈力には限界があり、価値あるアイデアを見逃しがち
なぜ重要か:新しい視点や革新的なアイデアほど、既存の枠組みでは理解しにくい
具体的な実践方法:
- • 「なぜこの提案なのか」を深掘りする質問を投げかける
- • 一見突飛に見える案も、実現可能性を探る姿勢を持つ
- • 複数人で多角的に検討し、隠れた価値を発見する
例:「意味不明」で終わらせず→「この提案の背景は?」「部分的に活用できる要素は?」
AIとの対話を楽しむ積極的な姿勢・マインド
問題認識:一方的な利用では、AIの能力の一部しか活用できない
なぜ重要か:対話を通じて、人間の創造性とAIの処理能力が相乗効果を生む
具体的な実践方法:
- • 初回の回答を起点に、追加質問で深掘り
- • 前提条件を変えて、別の可能性を探索
- • 人間のアイデアをAIに投げかけ、発展させる
例:提案を受け取って終了→「この案を○○の観点で発展させると?」「制約を緩めた場合は?」
両輪を回すことで価値が生まれる
質の高いインプット設計と効果的なアウトプット活用。
この両輪が揃って初めて、AIは真の思考パートナーになります。
次のセクションでは、この原則を実践するための具体的なテクニックを学んでいきましょう。
まずはこの3つ!対話の基本テクニック
難しいシステムプロンプトを覚える前に、まずはこの3つのテクニックをマスターしましょう。 これだけでも、AIとの対話は劇的に改善します。
Few-shot(例示)- 具体例で期待を伝える
AIに「こんな感じで答えてほしい」を伝える最も簡単な方法は、具体例を示すことです。 1つか2つの例を見せるだけで、AIは期待する出力パターンを理解します。
新商品のキャッチコピーを作ってください。 商品:AIアシスタントアプリ
以下の例を参考に、新商品のキャッチコピーを作成してください。 例1: 商品:スマートウォッチ キャッチコピー:「時間を味方に、毎日を変える」 例2: 商品:ワイヤレスイヤホン キャッチコピー:「音楽と、もっと自由に」 商品:AIアシスタントアプリ キャッチコピー:
Chain of Thought(段階的思考)- ステップを踏んで考えさせる
複雑な問題を一度に解かせるのではなく、段階的に考えるよう促すことで、 より論理的で深い分析が得られます。人間が理解しやすいステップに分解することがポイントです。
健康管理アプリの新規事業の収益性を評価してください。
健康管理アプリの新規事業の収益性を評価してください。 以下の手順で段階的に考えてください: 1. まず市場規模を推定 2. 獲得可能なシェアを検討 3. 必要なコストを算出 4. 収益性の結論を導出 各ステップで、根拠も含めて説明してください。
Iterative Refinement(段階的改善)- 対話で答えを磨く
最初の回答で満足せず、追加の質問や改善要求を繰り返すことで、 より精度の高い結果を得られます。AIとの「対話」を通じて、共に答えを創り上げていきます。
効果的な対話の例:
- 1. 「健康管理アプリのターゲット層を分析して」
- 2. 「30代女性に絞って、より詳しく分析して」
- 3. 「その中でも特に運動習慣がない人の特徴は?」
- 4. 「そういう人たちがアプリを使い始めるきっかけは?」
このように、徐々に焦点を絞っていくことで、表面的ではない深い洞察が得られます。
この3つのテクニックだけでも十分効果的!
システムプロンプトを使わなくても、これらの基本テクニックを組み合わせるだけで、 AIから価値ある回答を引き出すことができます。
より構造化したい時は:システムプロンプトの活用
チームで共通のフォーマットを使いたい、より複雑な指示を出したい時は、 システムプロンプトの構造を理解しておくと便利です。
システムプロンプトとは?
システムプロンプトは、AIに対する「構造化された指示書」のようなものです。 単発の質問ではなく、特定の業務や分析を行うための包括的なテンプレートとして機能します。
通常の対話型プロンプト
「競合分析をしてください」
→ 毎回異なる結果、品質が不安定
システムプロンプト
役割・文脈・指示・制約・形式を事前に定義した「型」
→ 再現性が高く、組織で共有可能
システムプロンプトの基本構造
競合分析プロンプトの例:
あなたは、上級戦略コンサルタントです。新規事業開発チームの一員として...
### 地域: {{#調査対象地域}}
### 自社: {{#会社名}}
### 新規事業: {{#事業コンセプト}}
- 必ず実在する企業を実名で分析する
- ハルシネーションは避けて信頼性のある情報のみ扱う
カテゴリ1(完全競合): 同じ顧客層、同様の解決方法...
カテゴリ2(代替競合): 同じ顧客層、異なる解決方法...
| カテゴリ | サービス名 | 顧客 | 解決課題 | ...
命令文(役割・目的)
AIに具体的な専門家の役割を与え、何のためにタスクを実行するのかを明確にします。 最も重要な指示はここに含めることで、AIが優先的に理解して実行します。
新規事業の市場分析について教えてください。
# 命令文 あなたは、上級戦略コンサルタントです。新規事業開発チームの一員として特定の事業領域に関する市場調査を担当しています。市場と競合環境を深く理解し、自社の戦略的な位置づけを改善するための詳細な市場調査を行ってください。ステップバイステップで実行します。
入力情報(変数化で汎用性を向上)
プロジェクトごとに変わる情報を{{#変数名}}の形式で定義することで、 同じプロンプトを様々な状況で再利用できます。これが組織の資産になります。
健康管理アプリの日本市場での競合を分析してください。
## 入力情報 ### 市場: {{#調査対象地域}} - ここに入力 ### 自社: {{#会社名}} - ここに入力 ### 事業領域: {{#事業概要}} - ここに入力
基本姿勢(制約条件・注意事項)
前提条件や注意事項を明確にすることで、ハルシネーション(事実誤認)を防ぎ、 信頼性の高い分析結果を得られます。
競合分析をしてください。
## 基本姿勢 - 事業領域から、リサーチのためのキーワードを広く検討する - 数値データは可能な限り含め、引用元を明示する - 必ず実在する企業を実名で分析する - ハルシネーションは避けて、信頼性のある情報のみを扱う
手順・分析内容(組織のノウハウ)
分析の手順やフレームワークを詳細に定義します。ここに組織独自のノウハウを注入することで、 高品質な成果物を再現性高く生成できます。
競合を分析してください。
## 分析内容 ### カテゴリ条件 - カテゴリ1(完全競合): 同じ顧客層、同様の解決方法 - カテゴリ2(代替競合): 同じ顧客層、異なる解決方法 - カテゴリ3(目的競合): 類似ジョブ、異なる課題 ### 分析項目 各競合について以下を調査: - サービス名、会社名 - 提供価値、顧客セグメント - ビジネスモデルの肝 - 売上高(フェルミ推定含む)
出力形式(品質の担保)
出力する形式や文字数を具体的に指定することで、AIの「省力しがち」な傾向を防ぎ、 必要な解像度と品質を確保できます。
競合分析の結果を教えてください。
## 出力形式 以下の表形式で出力してください: | カテゴリ | サービス名 | 顧客 | 解決課題 | 解決方法 | 収益モデル | ビジネスモデルの肝 | |---------|-----------|------|---------|---------|-----------|------------------| - 各項目は具体的に記述(各セル100文字以上) - 数値は必ず根拠と計算式を明示 - 各サービスの違いが明確になるよう詳細に分析
なぜシステムプロンプトが必要なのか?
個人の思いつきから
組織の資産へ
属人的なプロンプトではなく、
誰でも使える「型」として蓄積
再現性と品質の担保
毎回同じ品質の成果物を生成でき、
新人でもベテランレベルの分析が可能
チームでの知識共有
組織のノウハウをプロンプトに埋め込み、
全員で活用できる
組織で生成AIを使いこなす人を増やすために
企業が生成AIを活用していくために最も重要なことは、「生成AIを使いこなす人を増やす」ことです。 そのためには、再現性の高い「基盤」を整備し、個人から組織へと活用を広げていく必要があります。
生成AIを使いこなす人を増やすための3ステップ
基盤を整え、実践を通じて学び、組織全体へ展開する流れを作ります。
基盤:再現性の高いプロンプトの整備
業務目的に最適化されたワークフローとシステムプロンプト(雛型)を整備します。
● プロンプトの汎用化テクニック
プロンプト本体は変更せず、{{#変数名}}形式の入力情報だけを差し替えることで、 様々な業界・企業・課題に同じプロンプトを適用できます。
#命令文 新事業開発を検討するにあたり、{{#業界名}}の現状と 将来の見通しを把握したいと考えています。 #分析内容 - {{#業界名}}の主要な市場セグメントとトレンド - 5年から10年で予想される変化と課題 - 新技術とイノベーションの影響 - {{#自社}}にとっての事業機会 #入力情報 業界名:[ここに入力] 自社:[ここに入力]
このプロンプトで、製造業、小売業、金融業など、どんな業界でも分析可能
● 入力情報を最後に配置する理由
プロンプト本体(命令・分析内容)は固定し、変更が必要な入力情報は最後にまとめます。 これにより、毎回変更する部分が明確になり、作業効率が大幅に向上します。
(プロンプト本体:固定部分) #命令文 詳細な競合分析を行ってください... #分析内容 ・カテゴリ別の競合企業 ・各社の戦略と特徴 ・差別化ポイント (入力情報:変更部分) #入力情報 地域:[ここに入力] 自社:[ここに入力] 新規事業:[ここに入力]
● プロンプトライブラリの構築
汎用化されたプロンプトを体系的に整理し、組織の知的資産として蓄積します。
📁 プロンプトライブラリの例:
事業開発プロンプト/ ├── 01_メガトレンド分析.txt ├── 02_課題発散.txt ├── 03_競合分析.txt ├── 04_収益モデル検討.txt ├── 05_仮想顧客インタビュー.txt └── 使い方ガイド.md
各プロンプトは汎用化されており、入力情報を変えるだけで 様々な業界・事業に適用可能
活用:実践による学習促進
雛型を使いながら実践の中で個人が試行錯誤し、生成AIとの付き合い方を学びます。
プロンプトを使って実際の課題を解決
うまくいった/いかなかった事例を記録
AIとの効果的な対話方法を体得
応用・発展:組織全体への展開
個人の成功体験を組織の資産に変え、全社的な生産性向上を実現します。
組織展開のステップ:
成功事例をプロンプトライブラリに追加
想定外の使い方から新たな価値を創出
フィードバックを元にプロンプトを進化
誰もがAIを使いこなせる組織へ
効率化から「腹落ち」へ
ここまで学んだテクニックは、主に「効率化」に焦点を当てたものでした。 しかし、生成AIを真の思考パートナーにするには、もう一つ重要な要素があります。
それが「腹落ち」—— AIの出力を深く理解し、自分の言葉で語れるようになることです。
人間中心のプロンプト設計では:
ステップバイステップで理解を深める
大量の情報を一度に処理せず、人間が消化できるペースで段階的に進める
出力に「なぜ」を含めて思考プロセスを可視化する
結果だけでなく、理由や前提条件、計算過程も含めて生成させる
AIとの対話を通じて新しい視点を発見する
AIに質問を生成させることで、自分では気づかなかった論点に到達する
これらの理論的背景と、業務特性に応じた4つのAI活用パターンについて
腹落ちメソッドの理論を学ぶ